オランダ セミナー レポート
( In de ban van Japan 2006 )
Drogteropslagen Netherlands

このレポートは、スクールの練習法などを熟知した会員様への報告を兼ねて書いたものです。
一部に解釈が困難な所があります事をお詫びいたします。
準備編 コンペティション編

セミナー編



いよいよセミナー・・


 大誤算!

 受講者のほとんどは、ハイウエーを利用して、車で2,3時間という遠くから駆けつけた方ばかりで、
中には隣国ベルギーからの参加者や、キャンピングカーで駆けつけた、一週間の長期滞在者もいた。
主催者のWiesがセミナーの開会を告げ私を紹介する。
私は受講者への挨拶をすませると、今回のセミナーの主旨と進行を大まかに説明し、本題へと移っていった。
とにかく一言しゃべった事で、妙に落ち着きが出てくる。
髪の色や目の色は変わっていても、スクールの生徒さんに接するように、
普段と変わらない自身に満ちた自分を見せれば良い、「ノー・プロブレム」だ。

 セミナーは、競技の場合の「技術点」や「芸術点」の解釈の仕方から始めた。
どのような競技も同じだが、規定を知る事で、どのような犬やルーティンを作れば良いのかが見えてくるからだ。
それに、みんなが何が簡単で、何が難しいと考えているかの共通点が確認できるからだ。
そしてその為に、最低何が必要で何をすべきかを、午後からの実技につなげて行こうという手筈だ。
苦労して作ったプレゼンテーションが、力を発揮する時が来た。
世界最軽量小型のプロジェクターの中に入れた、これまた小さな2,3センチ画のSDカードに
苦労の跡がぎっしりと詰まっている。

 スクリーンに映し出されたタイトルの鮮明な画面に、受講者から「ワーウォ」と溜息が漏れる。
まずは日本製品の素晴らしさに「えへん・・」。
次に映し出された、英語と日本語の解説文には、苦笑いと同時に・・・、「ワーウォ」。 
ただ、受講者の期待が盛り上がったのもここまで・・、
セミナーを開始してすぐに、持って行ったプロジェクターが、ある時間を経過すると、
電圧の低下で点いたり消えたりするようになり、プレゼンテーションの資料が使えない状態になってしまった。
変圧器の電圧の問題だろうが、代わりが無ければどうしようもない。
前日にテスト使用をしたのだが、電源が入ることだけを確認したのみで、
長時間使用の事は考えても見なかったのが失敗だった。
今回のセミナーで、いちばんの味方になってくれる筈のプロジェクターが使用不可能に陥り、
頭の中は真っ白で一時的にパニック状態。
折角作った30ページに及ぶプレゼンテーションは、たったの3ページでオランダでの
仕事を終わってしまった。
仕方が無いので、PCバッグの中にあったDVDを使用して、TV画面を見ながらの進行に切り替える事にした。
プレゼンテーションを作成する時に利用したものを、PCバッグから出し忘れていたのが
三枚ほどあったのだが、これが多いに役に立った。

今回のテーマは絆(BOND)

持参したPCと、
役に立たなかったプロジェクター
使えなかったプレゼンテーション用の
画像の一部

 テオリーから実技へ

 セミナーが開始されてからしばらくは、案の定、通訳嬢の言ったとおりノバスコシア嬢は退屈そうな顔をして
連れている犬と戯れながら聞いていた。
帯同していたO氏もこの事は凄く気になっていたらしく、不安な気持で彼女の表情ばかり見ていたそうだ。
どうやら今回のセミナーはノバスコシア嬢を納得させる事が、成功の鍵のようである。
大人気ないが、たった一人の女性にむきになってる自分がいた。(オイオイ受講者は一人じゃないぞ〜)
初日のテオリーも終わりに差し掛かった頃、ノバスコシア嬢が、少しずつ耳を傾けるようになり、
ランチタイムになると彼女の方から、この時間を利用して「午前中の資料をみんなで見ないか・・」と
出席者に賛同を呼びかけるなど少しずつ積極的になってきた。

 ランチタイムのTVの前で、かぶりつきに陣取って画面を見つめる彼女がいた。
それからは通訳嬢が誤って通訳しそうになると自分から聞き返して、みんなに説明したり、
受講者の変な?質問に、「あなた何言ってるの、その事はさっきから彼が何度も説明してるじゃない」などと
通訳を通して私が内容を把握できる以前に、代わって答えたりと言った事も何度もあった。
この何年かの間暖めてきた「馴致」をテーマにした「アンディプログラム」が、皮肉にもスクールの生徒さんより、
オランダの受講者に興味を持って貰えた事は、嬉しい誤算でもあった。

 午後からの実技は、「馴致作業」の実際と応用を、充分に理解していただく為の初歩的な事に終始した。
受講者の愛犬を借りてトレーニングの実際を説明し、受講者にも試して頂いたりしたが、
地味な作業だけに、なかなか盛り上がりに欠ける。
アティラからも頼まれていた、キューを感じさせない誘導法にもかなりの効果がある事や、
コマンドだけで確実に動かす事の出来るトレーニング法として、期待できる事を力説しながらの講習は、
少しずつ受講者の心を動かし始めたようだ。
現在受講者が取り入れているトレーニング法に付け加えるだけで、スタイルそのものを変える必要のない事を告げ、
その上副作用の無い事も付け加えると更に安心したようだ。
受講者からは質問も多く出始めてくる。
質問には、デモ犬を連れていなかった為、アティラも利用したと言う、会場の片隅に飾ってあった
大きな馬の縫ぐるみを利用して進行したが、この馬君が2日間私の良きパートナーとして活躍してくれた


実技講習での良きパートナー、
縫ぐるみの馬君と通訳嬢

時には、受講者の愛犬をお借りして・・

 体験から創作へ

 2日目の朝、ノバスコシア譲と行動を共にしている通訳嬢から、嬉しい報告を耳にした。
彼女は「私だったらあんな事しないわ」と初めのうちは思っていたらしいが、セミナーが進むに連れて、
「新しい考え方や練習法も沢山あって、興味がわいてきた。それに彼はなんと言っても結果を出している」と
話していたそうだ。
どうやら生徒さんのビデオやジンガロのビデオが役に立ったようだ。
やはり、何度も話して聞かせるより、一度目で確認させた方が効果はある

 2日目のテオリーは、事前に日本のルーティンを見た事のある受講者からの要望もあり、
リンクの使い方や効果的なトリックの使い方を、スクールのベーシッククラスの生徒さんのルーティンを見せたり、
練習用のパフォーマンスビデオを見せたりしながら、私の感じるままに説明した。
これはプロジェクター用の資料には無かったものだが、怪我の功名とやらで結構効果があった。
時にはビデオの映像を止めながら詳しく説明する、質問も活発に飛び交う。
昨日よりは、なんとなく流れも良いように感じる。

 午後からの実技は、当方で行っている練習法(体に馴れさせる)をグループに分けて体験させる事にした。
多くの受講者がより難易度の高いトリックを求め、トリックとトリックを結びつける事に
多くの精力を傾けている事は、受講者の質問や練習を見聞きし感じていた。
これは日本のフリースタイラーも同じで、この事がパートナーにかなりの負担をかけているケースが多い。
動物の調教や訓練で大事な事は「常に公正でなければならない」と言う事だ。
犬が出来ない事を知ることよりも、自分が出来ていない事を知る事の方が大事だ。
そんな事を解らせる為に、スクールでは初心者に取り入れている練習法を体験させる事にした。

 簡単なグループレッスンだが、日本なら小学生でもしたことのあるグループ行進やグループパフォーマンスを、
この国の方たちは軍隊にでもいかない限り未経験らしく要領が悪い。
簡単なはずの体験レッスンが、見事なくらい滅茶苦茶で全く先に進めない状況。
オランダに来て初めて大声で怒鳴りながら走り回る事になった。
何故このような事をするかを説明をしながらの進行で、ようやく主旨の解った受講者は真剣にこの事に取り組み、
「こんな経験は初めてだ・・」と言いながら、最後には勝手にグループで競い合ったりして、
ゲーム感覚で楽しんでくれた。
あのノバスコシア嬢にいたっては、自分達の番が近づくとスタートラインに立つ
マラソン選手のような姿勢で、今にも飛び出しそうな勢い。
見学していたO氏が写真を撮りながら近づいてきて「えらく受けてますね」と笑いながらささやく。
ばかばかしいような初心者的なレッスンが、こんなに受けるとは思っていなかったので、
私自身驚くと同時に非常に楽しいひとときになった。

受講者には、車椅子のフリースタイラーも・・
トリックの数も多く、エネルギッシュな犬だった
 ある程度の基礎は出来ている方たちなので、楽しくやりさえすれば必ず効果は出てくる。
一通りのレッスンが終わったら、20分間の猶予を与えインターメディエイトクラスまでのグループには、
グループでのパフォーマンスを・・。
アドバンスクラスには、個人でのルーティン作りを命じた。
音楽は適当に主催者サイドで決めていただき、ルーティンタイムは90秒前後を指定した。
もともとグループ分けは、主催者側が適当に決めたようだが、今回のグループと個人でのパフォーマンス作りも
時間の関係で、私が適当に決めたもの。
だが、誰一人愚痴ったりする方もなく、みんな真面目に制作に取り掛かってくれる。
いっせいに話し合いの座についたり、犬を連れ出したりと活動を開始した。
どんな作品が出来るか楽しみだ。
とりあえず20分間はゆっくり出来る。(疲れていたので、この事が目的のひとつでもあったが・・)

 
ようやく、まとまりだしたグループレッスン
話し合いの間は、とにかくゆっくり煙草がすえる。
 頭を悩ます人にも、体を休める私にも、あっという間の20分、いよいよ発表の時が来た。
時間は足りたのだろうか?本当に出来てるのだろうか?
奇数名のグループは、奇数のハンデをどう補ってくれるだろうか?
車椅子のハンドラーを、どのように生かしてくれるだろうか?
タイムアップを告げた後、我がスクールではありがちな、「エェ〜ッ、もう時間ですか〜」の様な声も無い。
あらかじめ決めた順番に成果の発表を告げる。
みんな今までと変わらぬ顔・・というより、「待ってました」と言わんばかりに、スタートのポーズをとる。
グループ発表組の懸念していた課題は、とりあえず工夫の後が見える、「いいぞ!」。
驚いた事に、個人でのルーティン作りを命じた方達は、この事を予測していたかのように、
全ての方が充実したルーティンを発表して、私を満足させてくれた。
私は前置きをして一つ一つのルーティンに対し講評を述べた。
「今から述べる講評は、評価ではない。一人の観客としての私の素直な感想と希望です」・と。
今回のセミナーで私の言いたかった事の全て?は終わった。
(帰国して後、かなり言い忘れた事を日々思い出してはいるが・・)

 あとは残り少ない時間で、みんなの聞きたかった事に対し、答える時間だ。
“バックやサイドの線が真っ直ぐに描けない”“犬単独でのバックの距離が伸びない”
“ジャンピングハーフピボットターンはどのようにして・・”等など・・。
「ほとんどの質問の答えはセミナーの中にあったんですけど・・」と言いたかったけど、丁寧に答えた。
犬をお借りして、実際にトレーニングの順序を説明もしたが、
ほとんどの答えは「あなたの犬は準備が出来ていますよ、あなたが気付いてないだけです」だった。
準備の出来ている犬は、その場で結果も出して見せた。
小躍りして喜ぶ姿にホッと胸をなでおろした。

 雑談の中で、色んな新しい事や考え方をたくさん学んだ。
私も今回の渡欧で初めて知ったのだが、現地ではアメリカンオビディエンス派?と
ブリティッシュオビディエンス派?がいて、この言葉も定着しているようだ。
セミナー中に出席者から「貴方はどちらか・・」と尋ねられる場面もあった。
突然の唐突な質問に、質問者が二つのオビディエンスを、どのような違いで理解をしているのか解らず
一瞬言葉に詰まったが、何となく理解できるような気がして、
「どっちかと聞かれれば、ブリティッシュ」と答えた後に、
小さな声で「正しくはジャパニーズ・オビディエンス」と付け加えた。

日本国旗の見える中で、最後の仕上げ・・
 セミナーが終了した。
一日おいて日曜日のコンペティションを残すのみだが、今日で最後の受講者もいる。
受講者同士別れを惜しんだり、再会を約束したりで、会場はやや淋しい雰囲気になった。
私の手をしっかり握り、肩を抱くように別れを惜しんでくれる方もいる。
あのノバスコシア嬢と通訳嬢も今日が最後だ。
彼女が笑顔で近づいてきた。
最後には素晴らしい賛辞の言葉と同時にしっかりと握手を求めてきたが、あまりの賛辞に首を横に振ると、
通訳嬢から「こんな時は素直に、ありがとう・・といったほうが良い」とたしなめられる場面もあり
開始直後の重苦しい雰囲気からすれば、大成功だったと勝手に解釈している。

 会場を後にする車に向かって・・「ドゥーィ」今日が最後のフリースタイラー達よ。
たった一つ覚えたオランダ語を声を大にして叫んだ。

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